退職後の人生として選んだ楽農生活

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武本篤治さん武本篤治さん夫婦

居住地:兵庫県赤穂郡上郡町在住
フィルード:兵庫県播磨地方各地

長年勤め上げたJRを平成14年7月に退職された武本さん。
体力的にも、気力的にもまだまだ若者に負けないくらいに働ける、そんな思いと格闘しながらも、ゆっくりと、しかし確実に近づいてきた定年退職。この体力、この気力を、そう、何か社会に役立つことに使いたい、何かみなさんにお返しがしたいという思いが、自分のなかに生まれ、日ごとにはっきりとしたものになってくる。

「ずっとJRに勤めて、いろいろな駅で働きました。新幹線の新大阪駅で働いたし、上郡に来たのは有年駅(うねえき)での勤務のためだったんです。退職が近づいてきても、体力や気力は充実していて、何か役に立てたいという思いに結構悩みましたね。」

そんなとき、役場でふと「ひょうご森のクラブ」という活字を目にした。人の手が入らなくなって山が荒れていることは知っていたが、そうした荒れていく山を守ろうとしているボランティア活動のクラブがあることを知り、武本さんはすぐこのクラブに参加した。
龍野市の里山に入って、森の枝打ちや間伐、そして遊歩道の整備といった作業に携わるこのクラブの活動は今でも続けている。しかし、ボランティアが集合し、そこからそれぞれが山に入って森の作業をする、そんな活動を月に一度行うだけではものたりなかった。まだまだ何かやれるという気持ちは治まらない。

もっと何か、夫婦で一緒に楽しくできる、そんな活動をしてみたいと、JRの先輩が組合長を務める神河町の桜花園でサクラの剪定や追肥の世話をしたり、山崎町の菖蒲園でしゃくなげの手入れをするといった独自のボランティアも始めるようになった。また、上郡町の貸し農園を借りて、豆やイチゴ、キャベツや葱をつくることも始めた。
そして、平成16年度からは、棚田交流人にも応募して、月に一度、上郡町小野豆(おのず)の棚田を守る活動をするようにもなった。

棚田の作業や集会所での集いは、ばらばらに作業をする森のボランティア活動とは一味も二味も違って、いつも地域の住人や他の参加者と一緒に活動し、身近に接するため、ボランティア活動自体に溶け込みやすく、充実感や楽しさも大きい。月に一度の活動を繰り返すにつれ、他の仲間たちや地元のひとたちとの一体感が育まれていくことが心地よかった。

そうした活動のなか、桜花園で樹木医の特にサクラの専門家からサクラのことをいろいろと教えてもらうようになり、新しいことを学ぶ楽しさを知った。何気なく観てきたサクラという植物が、末長く美しく花を咲かせるためにさまざまな手入れを必要としていること、またそうした手入れを生み出してきた人々の深い造詣や技術には心を洗われる思いがした。こうした体験から、山のこと、棚田のこと、農業のこと、ただ体を動かすだけではなくて、やるなら教育を受けたい、そう思うようになったのである。

「森のクラブの活動は、山に入るとばらばらに作業をするから、一人でいる時間が多いし、他の人との一体感を感じることがあまりないですね。棚田での作業はその点、他の人といつも一緒だから、気持ちは楽なんですが、それでも社会の役に立ちたいという思いや使いたい体力と時間を充分に満たしてくれるものではないんで、もっと新しいことを学ぶという方向に自分が向いていったんですね。」

そんなとき、西播磨県民局で「楽農生活インストラクター」の募集案内に出会った。山や棚田を守りながら、作物を育て味わう「農」の楽しさを実践するなか、何か新しいことを学び、学んだことをまた次の人たちに伝えていくこの「インストラクター」という言葉は武本さんにとって、とても魅力的に映った。
滝野教育センターでの3日間の講習を経て、楽農生活インストラクターとして認定された武本さん。新しいことが始まる予感に期待が膨らんでいく。

県内各施設や地域で行われる楽農生活出前講座において、楽農生活インストラクターになったばかりの武本さんは、初めて教える側を体験した。
身体障害者授産施設「小野市起生園」と養護老人ホーム「姫路市立ふれあいの郷」の2ヶ所で、プランターでの花や野菜づくりを教えている。60分の講座のお手伝いをしたあと、養護施設の利用者と交流を深めながら実際のプランターづくりを行うというものだ。
この楽農生活インストラクターとしての活動によって、何かみなさんのお役に立ちたいという気持ちに少し落ち着きが生まれた。

平成18年1月28日、土曜日。
今日は小野豆に棚田交流人が集まり、餅をつく日である。天気は良く、寒さもそれほど厳しくない。もちろん夫婦で参加した。また餅つきを体験させたいと、孫たち家族も呼びつけた。蒸しあがったもち米を杵でつき、熱々の餅をまるめて餡やきな粉でおはぎを作る作業を集落の住人と手分けして行う。つきたての餅をほおばり、賑やかにその歓びを分かち合う。お土産に餅をいただいて帰ることも大いに楽しいものである。

(2006年取材内容)

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